AIで業務を効率化できるかもしれない、ビジネスを変革できるかもしれない――そんな期待感が広がっている。ITmediaのサイトで実施した「企業のAI活用に関するアンケート調査」では、回答者の61%がAI活用に前向きと答えた。中でも特に、外観検査やAI-OCRなど画像分析AIの活用を検討する企業が増えている。
こうした動向を受けて、「AIの活用を検討している企業」と「AIサービスを提供する企業」をマッチングする取り組みを展開しているのがデル・テクノロジーズだ。プロジェクト名は「Dell de AI “デル邂逅(であい)”」といい、約20社のAIパートナー企業と提携して日本企業のAI活用を後押ししている。
前回の記事では、ITmedia NEWS編集部の編集記者とデル・テクノロジーズの担当者2人で市場動向や成果を出せる導入方法について議論した。今回は、簡単な振り返りをしながら画像分析AIの活用に迫っていく。
「画像分析は大きく『人物判定』と『物体判定』に分かれます。市場調査によれば、物体判定が市場の6割を占めているものの、最近は人物判定の成長が顕著です。特にリスクマネジメントを目的とした安全管理やセキュリティ分野では、人手不足や労働災害対策、凶悪事件への対応といった社会的課題を背景に、この分野への投資が増加しています。これを受けてエッジコンピューティングの機器ベンダー、特にAIカメラの市場は順調に成長しています。
当社もエッジコンピューティングを成長領域の一つと位置付けています。今回は、Dell de AIのパートナーであるティ・エム・エフ・アース(渋谷区/以下、TMF)との協業による新しいAIカメラについて紹介します。そして、なぜデル・テクノロジーズがTMFとの協業を選択したのかについてお話します」――デル・テクノロジーズの江籠圭介氏(データセンター ソリューションズ事業統括 製品本部システム周辺機器部 ビジネス開発マネージャー)はこう説明した。
画像データを“超圧縮” 伝送〜保管コストを「10分の1に」
先ほど、画像分析AIへの期待が大きいと説明した。外観検査などの現場の効率化や改善などですぐに成果を挙げられるが、そもそも「画像」がなければAIで分析できない。そのため、画像を記録するカメラやデータを伝送するシステムが重要になる。なおここでは動画も含めて画像と表現する。
実は、これまで画像の伝送には大きな課題があった。遠隔拠点にある監視カメラの映像を本部に送ろうにも、通信キャリアの回線環境では高画質の画像を送りにくい。かといって帯域を太くするのは費用がかさんでしまう。
それを解決したのがTMFだ。同社はカメラ画像をほぼリアルタイムに伝送する「超圧縮伝送技術」を開発した。画像の情報量に応じて伝送量を調整することで、遅延を大幅に低減することに成功。IPカメラのエッジ環境に組み込むタイプから、スマートフォンやサーバで動くソフトウェアタイプまで用意しており、“AIの視覚”に相当する画像の取得〜伝送の段階で活躍する。
「画像を圧縮することで、データの保管コストも下げられます。画像データをサーバやクラウドに集めて処理する場合、ストレージに大量のデータがたまるので保管費用が膨大になります。画像のデータ量を10分の1にできれば、伝送コストだけでなく保管コストも単純計算で10分の1にできるのです」――TMFの代表を務める斎藤浩氏はこう話す。
使って分かるTMF技術の“すごさ” 無線接続でも遅延は0.5秒に
TMFの技術のすごさは、デモンストレーションを見るとよく分かる。実験環境として神奈川県の商店街に設置しているカメラの映像は、データを圧縮しているのに筆者の目には普段見るTVの画質との差が分からなかった。
盗難や事故などをチェックする監視用途の画像の伝送を、TMFは独自圧縮技術により平均30kbps〜100kbpsのデータ転送速度で実現している。従来の技術では少なくとも1Mbps〜1.5Mbps程度のデータ転送速度が必要だというので、およそ10分の1〜30分の1になる。
「人間検知などのAI利用向け画像では、40型のディスプレイに映しても鮮明に見える画質を150kbps〜250kbpsで伝送します。そして、顔認識や検査などで細部の確認が必要な場合は、フルハイビジョン相当の動画をなんと300kbps〜500kbpsで利用出来ます」とTMFの斎藤玲氏は胸を張る。ちなみに、デモンストレーションでは、カメラも閲覧端末も無線接続で遅延は約0.5〜0.8秒だった。
さらにスマートフォンをウェアラブルカメラとして活用するシステムも開発。撮影しながら移動した際に、電波環境が悪い場所でも接続を維持するために固定ビットレート(CBR)で画像を制御しており、カメラが動いた際はあえて画像のデータを間引くことで通信が途切れないように工夫している。想定する用途は、現場の作業員と本部の熟練技術者がリアルタイムでコミュニケーションする場面やバッテリー付き移動式定点カメラとしての用途などだ。
TMFは専用のビデオマネジメントシステムも提供しており、遠隔監視や顔認証、ナンバー認証などさまざまな用途で活用されている。
画像分析AIの効果的な導入は「システム全体」を見よ!
画像分析AIを導入する際、これまではカメラの性能や価格などに注目して機材を選ぶことが多かった。しかしカメラにつながるネットワークやシステム全体で、ROI(費用対効果)を考えるように発想を転換する必要があると斎藤浩氏は呼び掛ける。
「ROIや生産性を上げるなら、全体(TCO:総保有コスト)を見なければなりません。実は、システム全体においてはストレージ関連費用が占める割合が最も大きいのです。そのストレージ関連費用は、格納するデータ量に比例し、データ量はカメラ台数と画像の保存期間によって決まります。削減できる費用はお客さまの環境によってさまざまですので一概には決められないのですが、TMFは圧縮技術で本当に1桁違うレベルでTCOを抑えられます」(斎藤浩氏)
また、従来の方法では最初に選んだカメラの帯域によって、後ろのシステムの要件が決まってしまいシステム全体のコストを抑えるのにも限界があった。カメラを拡張しようにも帯域に限度がある。データを活用したくても膨大なデータ容量は保管できないなど、さまざまな課題が出てきてしまう。故に動画システム全体で考える必要がある。
全体を考えたとき、TMFのソリューションと親和性が高いのがデル・テクノロジーズの製品だ。組み合わせることで大きな効果を発揮する。エッジコンピューティング、特にAIカメラの市場は順調に成長しており、デル・テクノロジーズも成長分野として位置付けていることもあって、Dell de AIのパートナーとして両社が協業したとデル・テクノロジーズの江籠圭介氏は振り返る。
TMF×デルの高い親和性 適切な画像データの活用を後押し
デル・テクノロジーズはエンタープライズ向けに多様性と拡張性を兼ね備えたITインフラと、24時間365日のサポート体制を提供している。AI用途にも使えるGPUサーバ群「Dell PowerEdge」や、エッジ環境での分析もできる「Dell Edge Gateway」、仮想化環境での利用など、顧客のユースケースに応じた提案が可能だ。
TMFとの協業の一環で、画像圧縮などの各種技術をデル・テクノロジーズの製品で検証して結果を公開している。検証済みのシステムを使えるという点で安心感がある。
TMFのソリューションと組み合わせると高い効果を発揮するストレージ製品「Dell PowerScale」も展開している。画像データの保管に適しており、拡張性が高く運用負荷が低いという特長があるとデル・テクノロジーズの小野良夫氏は話す。
Dell PowerScaleはスケールアップ型のストレージなので、ストレージのノードをどんどん追加できる。このため論理的には保存容量の上限がないので、増え続ける画像データを保管して活用するのに適していると斎藤浩氏は評価する。
「PowerScaleはストレージを後から追加できるので拡張性が高く、画像の保存や活用に向いています。TMFの技術とデル・テクノロジーズのシステムを合わせれば、画像の取得から伝送まで止まることなく、取得したデータを保管し続けられるソリューションになるのです」(斎藤浩氏)
画像分析AIを使う現場は、工場のトラブル検知や市街地の安全確認などミッションクリティカルな場面が多いため、システムやハードウェアの不具合で停止することは避けなければならない。そこにデル・テクノロジーズの信頼性が高いハードウェアが役立つ。
ひとたび画像分析AIを導入したら、扱うデータはどんどん増えていく。そうはいっても、最初から数年後を見越して大容量ストレージを用意するのは費用面でも管理面でもコストが大き過ぎる。TMFの技術でデータサイズをできるだけ圧縮すれば、膨大なストレージコストでプロジェクトを圧迫することもない。さらにデル・テクノロジーズは従量課金モデル「Dell APEX」を用意している。カメラ50台分を1つのドライブで賄えれば月額費用は1つ分。その後カメラの台数が増えたらドライブを増量すればいいので、柔軟に運用できる。
見れば驚くTMFの技術 デモンストレーションをチェック
「総務省の『情報通信白書 令和4年版』では世界のインターネットトラフィックが、2030年には現在の30倍以上、2050年には4000倍に達するという予測を紹介しています。そんな量のデータは送受信にも保管にも膨大なコストがかかるでしょう。TMFの技術を向上させて、データ量を10分の1、20分の1、30分の1に圧縮していければ企業の負担を減らせると考えています」(斎藤浩氏)
ここまで見てきたように、TMFとデル・テクノロジーズのソリューションを組み合わせれば、画像の取得から伝送、保管、活用までのシステム全体で強みを発揮できる。このメリットは、現場の人であれば理解できるはずだ。
TMFのデモンストレーションは、デル・テクノロジーズの本社(東京都大手町)にある「カスタマーソリューションセンター」で見られる。カメラの実機や遅延の具合を確認でき、TMFの技術力の高さに驚くだろう。これから画像分析AIを導入したいと考えている人は、試しに足を運んでみてはいかがだろうか。
また、デル・テクノロジーズではパートナー企業を募集している。TMFのソリューションを広く展開したり、Dell de AIパートナーとして日本のAI活用を後押したりできる企業は、同社に声を掛けてほしい。
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