寺田倉庫は、拠点である東京・天王洲をアートの一大拠点にするための街づくりに取り組み、昨年だけでも3つのアート関連施設をオープンしました。メディアに掲載される情報の大半を芸術文化発信事業が占めているため、SNSなどでは、「寺田倉庫は倉庫会社なの?」などと、コメントされることもしばしば。しかしながら、声を大にして言わせていただきますと、当社は正真正銘、倉庫会社なのです。ワインや美術品、貴重品、機密文書など専門性の高いアイテムの保存・保管を大得意としています。今回はその中でも映像・音楽メディアの保管サービスの知られざるストーリーをご紹介します。
映像・音楽メディアって?
「映像・音楽メディアの保管」と聞くと、エンターテインメント業界だけに関わるものというイメージがあるかもしれませんが、多くの方にとっても身近な存在です。CDやDVD、遡るとVHSテープやカセットテープ、MDディスクも映像・音楽メディアです。お気に入りのテープやディスクを何年も大切にしまっていて、思い立って引っ張り出してみたら、画質が悪かった。再生できなかった。そんな思い出をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ただ保管しているだけでは、時間と共に劣化してしまうのがテープやディスクです。これが映像業界で起きてしまうと、昔を懐かしむエンターテインメント番組や歴史を映像で紐解くドキュメンタリーを現在の私たちが楽しめなくなるどころか、未来へつなぐ文化資産を失うことも意味します。
この繊細なメディアに入っている貴重なコンテンツをお客様に代わってお守りするのが、当社アーカイブ事業グループの仕事です。メディア保管を中心とした法人向けのサービスを約40年にわたり展開しています。テープやフィルムに適した温度・湿度を追求し、強固なセキュリティも施した最適な環境を構築。現在では約500社から1200万点におよぶテープ・フィルム類をお預かりし、国内業界シェアのトップを走っています。
守るだけにとどまらない人
現在アーカイブ事業グループを率いる緒方靖弘には、忘れられない言葉がありました。
入社20年を超える彼がまだ3年目だった春に聞いた、とあるメーカーに勤めている方の発言です。
「保管って、スペースも費用も少ないほどいいんだから『必要悪』だよね。
でも寺田倉庫は、長く保管することで価値を生み出すってところが素晴らしい」
保管の必要性を理解し、当社の取り組みも評価してくれた発言ですが、その言葉が当時の彼には大きな衝撃となりました。
「あれ。自分は『必要悪』って言われるもののために毎日がんばってるんだっけ」
メディア保管の世界で経験を重ねるうちに、緒方の中でその言葉が育っていきました。
保管料を支払い続けることが「必要悪」だと思う人がいるならば、
- 保管料を支払う人が保管することで利益を得られる仕組みを作ってやろうじゃないか
- それも、長年アーカイブに従事する者として、多くのお客様に役立つ仕組みにしよう
- もちろん自社事業の発展につなげることも忘れてはいけない
と思うようになりました。
事業を見渡すと、フィルムやテープに加え、近年のデジタル化に伴い映像データの保管も増えていました。現在では国内トップといえる6万時間分もの映像コンテンツをお預かりしています。それもプロが制作した上質な映像で二度と撮れないような貴重な作品ばかり。何が保管されているか見られたら、買ってでも使いたい人がでてくるに違いないと考えたのです。
コンテンツのマーケットを作ろう!
1. コンテンツの持ち主は、保管しているコンテンツが他の人に活用されます。保管されているコンテンツがなければ成り立たず、保管料を払うだけではなく、利益をもたらす可能性が生まれます。かつて聞いたあの言葉を覆す仕組みです。
2. コンテンツを購入する側にもメリットがあります。例えば番組制作では、必要な映像があるときには、一瞬しか放映しないとわかっていても、またタイトなスケジュールであっても、長時間のロケが必要な撮影もあります。コロナ禍においては、移動そのものが制限されてしまう状況も生じます。それが自分のデスクにいながら、良質な素材コンテンツをマーケット上で見つけられたら購入する価値は十分に考えられます。つまり、多くのお客様にも役立てていただけます。
3. ゼロからマーケットのシステムを作るのではなく、現在のサービスから展開できる可能性もありました。アーカイブ事業グループには、データコンテンツ管理専用のオンラインシステム「Terra sight(テラサイト)」をオリジナルで構築しています。お客様は自分専用ページでコンテンツを把握できるだけでなく、フォルダを使って画像やPDF形式の関連資料まで保管・管理できます。大容量と言われる映像データのフルプレビューや、膨大なコンテンツから必要なものがすぐに見つかる検索など、データコンテンツの管理に特化した機能が備わっていました。販売したいコンテンツをマーケットに出品する機能や購入したいコンテンツを閲覧できる機能も追加すると、Terra sightをマーケットに展開できると考えました。
実際、制作されたコンテンツを他社が二次利用するには、販売する側と購入する側でのマッチングが重要で、その情報収集や調整には時間と労力を要します。Terra sight特有の機能は、この課題解決にも貢献できそうでした。(Terra sightの詳細は欄外をご参照ください)
当然マーケット実現のためにはハードルもありました。特にコンテンツを売買する際には、1件ごとに権利許諾の処理を行い、利用範囲・利用方法・納品形式・支払などの調整や手続きが発生しますが、可能なところは寺田倉庫が行うことにしました。お客様目線で省略化、簡略化させたのです。
2019年、コンテンツのマーケット「Terra sight MARKET」が誕生しました
お客様目線はこれに留まりません
ちなみにこのTerra sightやTerra sight MARKETを利用するためには、映像コンテンツはデータであることが前提です。近年制作されているコンテンツの多くはデータであるためスムーズなのですが、フィルムや古いメディアに入っているコンテンツもまだまだたくさんあります。これにはデータ化する「デジタイズ」作業と、それに伴う費用が発生します。後世に残したいコンテンツであってもすぐに収益化が見込めない場合、デジタイズ費用がハードルとなってしまいます。また経年劣化はデジタイズ後のクオリティにも影響するため、劣化が進行しやすいメディアに収録されている場合は特に早い対応が重要です。
素晴らしいコンテンツを未来に継承するために、アーカイブ事業グループは自分たちが諦めないだけでなく、お客様もすぐには諦めさせません。昨年度だけでも複数のアニメーションやオーケストラのコンテンツを仲介してクラウドファンディングを成立させ、デジタイズに必要な資金調達のお手伝いをしました。また別のコンテンツには、文化庁などのアーカイブに関する補助金申請のサポートを行いました。前者は熱狂的なファンの応援を受けて、後者は未来に残す価値を認められてデジタイズに至った例です。
これから
フィルムなどの保管から始まったアーカイブ事業は、デジタイズやデータストレージにもその範囲を拡大しつつ、現在もお客様のコンテンツを大切に守っています。そこにコンテンツ保管の価値を知るプロならではの視点を駆使し、時代やニーズを掴んだ進化を続けています。
お客様との関係も、Terra sight MARKETやクラウドファンディングのように、預けるお客様、お預かりする寺田倉庫という枠を超えて、ビジネスパートナーのように共に利益を生みだせる形を目指しています。
緒方自身も、複数のアーカイブ関連団体において要職を務めながら、コンテンツ保管・アーカイブへの貢献を続けています。そしてTerra sightやTerra sight MARKETがあまねくコンテンツのプラットフォームなることを目指し、日々邁進しています。
今回は、お客様からご相談をいただくときの緒方の言葉を締めに。
「コンテンツ管理は何も考えず、すべてうちにお任せいただければ大丈夫ですよ。どうぞクリエイティブに集中してください。」
【補足】文中の「Terra sight(テラサイト)」とは
データコンテンツ管理専用のオンラインシステム。お客様専用ページでは、アーカイブしているコンテンツがいつでも確認できます。また実際の映像データは容量が膨大になるため、Terra sight上は圧縮した低解像度のProxy動画データを置いて全編プレビューが可能です。フォルダ作成もできるため、番組に紐づく素材映像や宣材写真データ、台本のPDFなどをひとまとめにでき、関連コンテンツの管理もスムーズです。さらにお客様自身が管理したいメタデータ(コンテンツに関連した情報を記載したデータ)で検索できるように、検索項目自体をお客様がいつでも設計、設定が可能な非常にフレキシブルなシステムになっています。もちろん実際のコンテンツデータの取り出し依頼は簡単な編集依頼も含めいつでも行えます。ちなみに、デジタルコンテンツのストレージのためには別途オフラインストレージがあり、その安全性などから高く評価され、現在では6万時間分を超えるデータをお預かりしています。
https://www.terrada.co.jp/ja/service/media/terra-sight
【Terra sight MARKETのプレスリリースはこちらから】
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000140.000014158.html
【映像・メディアアーカイブの保管や上記サービスに関するご相談はこちらから】
https://www.terrada.co.jp/ja/contact/media
【報道関係者お問い合わせ先】
寺田倉庫 広報グループ E-MAIL: pr@terrada.co.jp
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