
東京電力福島第1原発事故で発生し、栃木県の農家で長年一時保管されている放射性物質を含む牧草などの「指定廃棄物」。那須塩原市でこれを暫定集約する作業が始まり、農家負担の軽減に向けた動きが緒に就いた。一方で、県内1カ所に集約する流れに広げるのは、一筋縄とはいかない。
搬出に安堵する農家
10月22日、遮水シートで覆われていた放射性物質を含む牧草や稲わらなど約1・5トンが、酪農業の男性(68)の畑からトラックに積まれ、市ごみ焼却施設へ運ばれた。作業を見つめていた男性は「行政から『来年には片づける』といわれて約10年。諦めていただけにうれしい」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。
同市内では農家53戸が約1216トンの指定廃棄物を保管している。市は8月末から、市ごみ焼却施設で保管していた焼却灰の指定廃棄物約1700トンのうち放射能濃度が国の基準値を下回った1116トンの処分を開始。農家保管の指定廃棄物も、基準値以下のものは指定を解除し一般ごみとともに焼却される。
男性は「われわれが出したわけではないのに…、悪いものでも抱えているような扱われ方がつらかった」という。
現実路線へ
福島県に近い栃木県北部では原発事故により、畑や牧草地などで放射性物質を含む廃棄物が多数発生した。栃木県内では那須塩原市と那須町など4市2町の農家123戸で、約3千トンが一時保管されている。
環境省は長期管理施設を建設して指定廃棄物を1カ所に集約する方針を打ち出し、平成26年7月に塩谷町を候補地として公表した。しかし、同町は「白紙撤回」を求め、現地調査さえ行われていない。 今年6月、環境省の堀内詔子副大臣(当時)が那須塩原市を訪れ、市内の農家が保管している指定廃棄物を市ごみ焼却施設1カ所に集約してほしいと提案。渡辺美知太郎市長が受け入れる方針を示した。放射能濃度の測定でその8割が国の基準値を下回ったことも現実路線へと舵を切る要因となった。
渡辺市長は「処分場を造るか造らないかという議論は現実的ではない」と述べた。
不安と期待が交錯
ただ具体的な動きは同市に限られている。農家保管の指定廃棄物が約1679トンと最も多い那須町でさえ、環境省との具体的な協議に入っていない。平山幸宏町長は「指定廃棄物を動かすことが風評を生まないか」と懸念を口にし、「安全な移動や保管方法などを国から示してほしい」と訴える。
市町ごとの暫定集約場所の選定も悩ましい。6戸の農家が指定廃棄物を保管している矢板市は昨年6月、基準値を下回った廃棄物の指定解除に向け環境省との協議に応じると表明した。「暫定集約の候補地を選びやすくするためには指定解除が欠かせない」と同市。ただ環境省との協議は進んでいない。
環境省関東地方環境事務所の日下部浩保全統括官は、那須塩原市を先行事例として「他市町とも精力的に協議を進めすべての農家の負担がなくなるよう暫定集約を進めたい」とする一方で、「農家との合意や条件を整えていく必要があり、急がず丁寧に説明し理解と了解を得て対応したい」と、拙速を避けたいとの考えもうかがわせる。
今後、暫定集約に向けた動きは加速するのか。農家は不安と期待を交錯させながら、事態の推移を見守っている。
【指定廃棄物】 福島第1原発事故で大気中に放出された放射性物質が付着したごみの焼却灰、浄水発生土、下水汚泥、稲わら、堆肥などのうち、放射能濃度が1キロ当たり8000ベクレル超え、環境大臣が指定したもの。国の責任で各都道府県内で処理することになっている。一時保管している農家では土地が利用できない不満を募らせるほか、台風や竜巻などによる飛散や流出の恐れも危惧されている。
【記者の独り言】 福島第1原発事故から10年。福島県と接する栃木県には放射性物質が風で流され降り注ぎ、いまも暮らしに影を落としている。6市町の農家が畑や山林、牧草地などの一角で保管を続ける稲わらや牧草といった農業系の指定廃棄物はその一つ。他県より農家保管量が多いのも栃木県の特徴だ。関係市町が暫定集約に向け動き出したとはいえ、多くの農家はいまも保管を続けている。農家の負担軽減に向け、国と各自治体の対応が急がれる。(伊沢利幸)
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