川崎フロンターレが天皇杯を制して今季二冠を達成した。圧倒的な強さを誇った川崎を牽引してきたのが、背番号10を背負う大島僚太だ。中村憲剛が引退し、新たなシーズンを迎える2021年、若きリーダーは何を思うのか。
2020年11月25日、等々力で行なわれたガンバ大阪戦。川崎フロンターレが4点をリードして迎えた、86分のことだった。大島僚太は、自身が交代することがわかると、一瞬、守田英正のほうに目を向けた。
前節の大分トリニータ戦、キャプテンを務める谷口彰悟が退場して出場停止となったことで、この試合では副キャプテンの大島が代わってキャプテンマークを巻いていた。そして交代時にその腕章を託す相手は、もうひとりの副キャプテンである守田の予定だったからだ。
しかし、目が合った瞬間、守田が自分と同じ考えであることがすぐにわかった。大島は交代ゾーンへと歩みを進めると、待ち受ける背番号14の左腕に、ぎこちない手つきでキャプテンマークを巻いた。
中村憲剛は、試合後にこのシーンを「ちょっと、泣きそうになった」と振り返っている。それを聞いた大島は、「僕としてはそんなに深く考えずに、ここは憲剛さんがつけるべきだと思っていました。だから、泣きそうになったと聞いた時は、びっくりしましたね」と、予想外の反応に驚きを隠せなかった。
大島がピッチを退いてから川崎はさらに1点を加え、それからほどなくしてタイムアップの笛が鳴った。2位のG大阪との直接対決を5−0の圧勝でモノにした川崎は、11月25日、ホームの等々力で2年ぶり3度目のリーグ優勝を成し遂げている。
その瞬間をベンチで迎えた大島は、実は複雑な感情を抱いていたという。
「もちろん、うれしかったんですけど、優勝して、等々力で喜ぶ憲剛さんの姿がもう見れなくなると思ったら、急に寂しさが湧いてきて......」
2020年シーズンかぎりで現役を退く中村の偉大さを、あらためて実感した3度目の優勝だった。
史上最速、最多勝点、最多勝利と、圧倒的な強さを示して優勝を成し遂げた2020年の川崎だったが、シーズンが始まる前は期待と不安の入り混じる状況だった。4−3−3の布陣による、新たなスタイルにチャレンジしたからだ。
これまでの川崎のサッカーは、風間八宏監督が築いたパススタイルがベースとなっていた。あとを引き継いだ鬼木達監督がそこに守りのエッセンスを加え、攻守のバランスに優れた勝てるチームへと進化を遂げている。
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