国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が16日、広島市の平和記念公園を訪れた。同日は国連総会で採択された「五輪休戦決議」の休戦期間が始まる日で、バッハ氏は「広島へ来て人間としての大事な感情を持つことができた。東京五輪・パラリンピックは平和な未来への希望の光となる」と述べた。
バッハ氏は原爆死没者慰霊碑に献花し、広島平和記念資料館を被爆者の男性らと視察した。案内役を務めた広島県の湯崎英彦知事によると、バッハ氏は被爆の悲惨さを物語る展示物に衝撃を受け、予定時間を超えて熱心に資料を見て回ったという。視察を終えたバッハ氏は、「世界の人々が広島を訪れてほしい。そうすれば平和の重要性を感じることができるはずだ」と語った。
バッハ会長の被爆地訪問について、広島県原爆被害者団体協議会(坪井直理事長)の箕牧智之理事長代行(79)は、「被爆の実相について海外の関心を集めるきっかけになれば、訪れた意義は大きい」としつつ、「スピーチで核兵器廃絶への言及がなかったことは残念だ。ヒロシマの心を大切に、世界の平和に向けて一層貢献してほしい」と訴えた。
一方、コロナ禍の中で開かれる「平和の祭典」に、複雑な心境を抱く被爆者もいる。もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(76)は、抗議の意思を示すため平和記念公園に駆けつけ、「バッハ会長が本当に平和を発信したいのか分からなかった。五輪のPRに被爆地を利用しないでほしい」と憤った。
同公園周辺では、バッハ会長の広島訪問や東京五輪に反対する数十人が抗議活動を行い、一時騒然とした。
IOCのジョン・コーツ東京大会調整委員長は同日、長崎市を訪問し、長崎原爆資料館を視察。国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館では、原爆死没者名簿を奉安している「追悼空間」で献花し、持参した折り鶴をささげた。
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