ロシア産冷凍カニ
「オランダはノーマークでした」。昨年十月、本紙と何度目かの打ち合わせをしていた東京都港区のWWFジャパンの会議室で、IUU(違法、無報告、無規制)漁業対策マネージャー植松周平さん(43)が言った。WWFジャパンと本紙がロシアを中心にIUU漁業の共同調査を開始したのはその四カ月ほど前。同団体が国連商品貿易統計や、ロシアが公表している資源評価情報、各国の通関データなどを収集、分析する一方、本紙は事業者や専門家、関係省庁を取材し、データを意義づけしていた。
経産省「実態、統計なく不明」
ロシアのカニ漁業では無許可の乱獲や偽造書類を使った不正輸出が横行しており、闇のカニビジネスに手を染める犯罪組織は「カニマフィア」とも呼ばれる。こうした状況を打破しようと日ロ間で結ばれた協定はカニを漁獲した船の船員名簿なども把握される厳しいもので、二〇一四年の発効以降、不正は困難になったというのが日本政府の立場だ。ただ、ロシアでは依然、カニマフィアの摘発が相次ぐ。闇のカニは日本に入っていないのか。
鮮度を考慮しないため流通ルートが複雑化しやすい冷凍カニに関してロシアの輸出状況を調べるうち、奇妙なデータを示したのがオランダルートだった。いったん同国を介せば日ロ間の規制は意味を成さない。発効前後からのオランダへの輸出急増は「IUU漁業由来のカニの新たな流通ルートになった」(植松さん)可能性を示していた。
「オランダを介した中継貿易自体は一九九〇年代半ばに始まった。自分も初期から携わったが、当時はIUU漁業は大きく問題視されていなかった」。取材を進める中、こう話したのは国内水産業界最大手「マルハニチロ」ロジスティクス部長の片野歩さん(59)だ。
関税を支払う必要がない巨大な保税倉庫群を備え、中継貿易のハブ港とされるオランダ・ロッテルダム港。日本と比べ保管料は格安で、欧州市場へのアクセスもいいため、目を付けたという。ノルウェー産のサバ輸入などに活用してきたが、当時と比べ、世界の水産市場は様変わりした。中国の経済成長などで市場が巨大化し、カネになる海に人が群がった。IUU漁業が拡大し、高値で売れるカニは格好のターゲットになった。
巨大な中継ハブ港で流通ルートが適正か、逐一、把握するのは不可能だ。さらに片野さんは「冷凍カニの場合、中継貿易に加え、別の国で加工されるケースも増えている」と解説する。冷凍カニが缶詰など商品に加工された場合、原産地は、漁獲した国から加工した国に変更される。カニマフィアが取ったものが、アジア原産のカニ食品に化けるかもしれない。
ロシア産カニのオランダ中継ルートについて経済産業省の担当者は「船便で相当量が国内に入っている」と認める一方、具体的な規模や、第四国での中継加工の実態については「統計がなく不明」とし、今後、調べる予定もないという。
片野さんが嘆く。「食卓に並ぶ魚介類がいつどこでだれが取ったのか。日本ではIUU由来のものが混ざっていても区別できなくなっている」 (前口憲幸)
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魚やカニ、イカやタコといった海の水産物。この海の恵みともいうべき水産物が今、世界の海洋環境の悪化により、深刻な危機にさらされています。水産物として利用される生物の三分の一は、すでに乱獲状態にあり、持続可能な範囲の漁獲枠に余裕があるとされるのは、わずか一割。日本はもとより世界全体を見ても、これ以上天然魚の漁獲量を増やすのが難しい状況です。
さらにIUU漁業と呼ばれる問題も深刻化しています。これは水産資源の乱獲や漁業の現場で人権侵害を引き起こしている国際的な課題で、日本と関係の深い問題です。日本は消費している水産物の四割を輸入に頼っていますが、その三割がIUU漁業に由来していると考えられるためです。
すでに地球全体の生物多様性が過去五十年間に69%も失われた中、こうした状況が続けば、世界の海はさらに豊かさを失うことになります。
日本、特に北陸地方にとって水産物は全国の食と地域の産業を支える大事なものでもあります。北陸と関わりの深い水産物を起点としながら、世界の水産業をめぐる課題と、未来に向けて今、私たちが考えるべき海との付き合い方について、今回、北陸中日新聞と共同で記事を掲載する機会をいただきました。ぜひ、皆さまにはご自身の食生活につながっている問題として、この海の問題に目を向けていただき、今何をするべきなのか、ご一緒に考えていただければと思います。
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