みなさま、こんばんは!
機械式時計について技術者視点で語る本コラム、第3回となる今回は、
『機械式時計はどのように保管すれば良いの?』
こちらをテーマにお話ししていきます。
お客様から「腕時計を保管する時に、どのようなことに注意すれば良いの?」という質問をよくいただきますが、結論から言うと、全ての時計において「この保管方法が正解!」というものは無く、使用用途やお持ちの機種によってオススメの保管方法は変わるのです。
では一体、どのようにして保管すれば良いのか?順番に解説いたしますので、本記事を参考に、適切な保管方法で末永く愛用いただければと思います。ぜひ最後までご覧ください。
機械式時計の保管方法
では、順番に見て行きましょう。
1.無造作に置く
外した腕時計を、自宅のデスクなどにそのまま置かれる方。もちろん、それだけで時計が壊れてしまうことはございませんが、僅かなダメージが積み重なって時計の寿命を縮めてしまう、またはオーバーホールの周期が早まってしまう可能性があります。
また、毎日のルーティーンで、家に帰ると腕時計を外して定位置に置くという方、慣れてしまって置き方が雑になっていませんか?特に無垢素材や大型のケースなど、時計自体に重量のあるものを雑に置いてしまうと、内部のムーブメントに悪影響を及ぼすこともありますので、十分に注意しましょう。他にも注意点はいくつかございます。
ブレスレットタイプの時計を文字盤が上向きの状態で無造作に置くと、裏蓋とバックルが擦れて、互いにキズを付けてしまいます。可能であれば、裏蓋とバックルの間にクッションになるものを挟みましょう。
また、敢えて直射日光の当たる場所に保管して、文字盤のエージングを進めようと考える方もいらっしゃるようですが、これはあくまで”自己責任”ということでお願いします!
と、ここまで見ると、無造作に置くのはオススメではないと感じられた方が多いと思いますが、実はケースなどを使用せず、テーブルの上などに保管する場合のみ楽しめる「裏技」もあるのです。
それは「姿勢差」を利用した精度の微調整です。
機械式時計は、どんなに高精度に調整されていても「姿勢差」が存在します。
姿勢差とは、腕時計の向きによって精度にばらつきが発生することを意味します。例えば、文字盤を上向きの姿勢にして置くと一晩で5秒進み、文字盤を立てた姿勢で置くと一晩で10秒遅れるなど、違いが発生するのです。
文字盤上の姿勢だと日差「+8秒」のところ、
古くからの時計愛好家の中には、この「姿勢差」をうまく利用して時計のズレを修正している方もいらっしゃるのではないでしょうか?
その方法というのは、ご自身の腕時計と時報との差が「+20秒」ある場合、遅れが出る姿勢で保管する。逆に「ー20秒」だったら進む姿勢で保管する、といった具合です。
時計一本一本のクセ(姿勢差)を把握し、時計を外して保管しておく向きを調整する。特に姿勢差が大きく出やすいヴィンテージウォッチをお持ちの方には有効な保管方法と言えるでしょう。
2.ケースに入れて保管
時計店やインターネットで販売されている、複数本をまとめて入れることができるケース。時計を沢山お持ちの方にとっては非常に便利なアイテムですよね。私も時計ケースを利用しており、帰宅したら時計を外し、クロスで乾拭きをしてから収納するようにしています。大切な時計に不用意なキズを付けてしまったり、落下させてしまうリスクが少なく、スペース効率も良いため複数本お持ちの方には有力な選択肢ですね。また、ケースを置く環境が”高温多湿”や”極端に寒い”ことが無ければ、時計にとって負荷の少ない保管方法と言えます。
ただし、ケースに入れて保管する場合は、基本的に「文字盤が上向き」の状態になると思いますので、前述したように”時計の姿勢差”を利用して精度を改善させる楽しみは味わえなくなる、という点も理解しておきましょう。
3.ワインディングマシーンを利用
自動巻きの時計をセットしておくと、ゆっくり動いてゼンマイを巻き上げてくれるワインディングマシーン。日付の早送り機能が無く、調整に手間が掛かってしまうようなモデルをお持ちの方にとって非常に便利なアイテムと言えます。
しかしこのワインディングマシーンも、様々な種類のモノが販売されており、各々特徴が異なるため、全ての方にオススメな訳ではなく、デメリットも理解しておく必要があるのです。
例えば、機種やプログラムの選択を誤ると、時計をセットしているのに十分ゼンマイが巻き上がらなかったり、逆にフルに巻き上がった状態でゼンマイがスリップし続けてしまったりする可能性があります。「ワインディングマシーンにセットしているのにすぐ止まってしまう」「オーバーホールして間もないのになんだか調子が悪い」といった不具合に繋がることもあるのです。
ちなみに、”動かさずに止まったままにしておくと油が固まってしまう”とお考えの方もいらっしゃるようで、「機械式時計は止めずに動かし続けておいた方が良いの?」というご質問も時々受けますが、近年腕時計に使用されている潤滑油は、温度変化や経年劣化に非常に強くなっておりますので、数ヶ月動かさずに置いていたとしても特に問題は無いと思います。
まとめ
腕時計の保管方法ひとつとっても、使用する方や時計毎に合う、合わないがございますので、みなさまのご使用パターンや、所有本数、モデルによって最適な方法で時計を保管いただければと思います。ただ一つ確実に言えることは、時計を無造作に置くにしても、優しく丁寧に、なるべく毎日の乾拭きは忘れずに!これは徹底してください!
本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも沸いたようであれば、幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければお答えしますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。
次回もお楽しみに!ではまた!
からの記事と詳細 ( 時計の保管方法について :時計鑑定士 金子剛 - JIJICO )
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