新型コロナウイルス感染症に国民が不安を抱える中、「復興五輪」の象徴として福島県からスタートした東京五輪聖火リレー。初日の25日に沿道で取材した記者が目にしたのはランナーより目立つスポンサー車両による「お祭り騒ぎ」だった。(原田遼)
◆大音量で「ズチャ、ズチャ、ズチャ」
小高い丘にひっそりと立つ市営陸上競技場。ここがいわき市の聖火リレーコースの出発点となる。私は競技場から約200メートル下り、中腹の沿道で聖火が来るのを待っていた。
最初に小型車が来て、「もう少しでランナーが来ます。大声は控え、拍手で応援しましょう」とアナウンスされた。沿道の隣にいた浦山義直さん(71)に話し掛けると、「次男がランナーの伴走者に選ばれているんだ」と目を輝かせている。
しかし、森の陰から「ズチャ、ズチャ、ズチャ」と大音量の音楽を響かせ、やってきたのは大型トラックだった。真っ赤に塗られた車体に「コカ・コーラ」の文字。リレーの最上位スポンサーだ。
◆飛沫が落ちそう
車両は「コンボイ」と呼ばれる宣伝用の改造車らしい。荷台部分の上部分にDJ(ディスクジョッキー)が乗り込み、マイクで叫んできた。「福島のみなさん1年待ちました」「踊って楽しみましょう」。DJはマスクはつけていない。沿道と距離は近く、観覧者に飛沫(ひまつ)が落ちてきそうだ。われわれには「大声を出すな」と言っていたじゃないか。
車両は早歩きくらいのスピードでのろのろ進む。並走し、10人ほどのスタッフ(マスクは着用)がダンスを披露したり、観覧客にタオルを配ったりしてくる。コロナ禍の最近は、接触を避けようと街でティッシュ配りも見なくなったけど…。
◆「これはちょっと違うんでねえか」
ほかの最上位スポンサーであるトヨタ自動車、日本生命、NTTグループの「コンボイ」が続いてやってくる。「ゆず」や「EXILE」の曲をかけ、こちらはマスクを付けたDJが負けじと声を張り上げる。いくつもの音楽と掛け声が重なり、かなりうるさい。
「これはちょっと違うんでねえか」。隣で浦山さんがしきりに首をひねっていた。「復興五輪って感じはないですね」。私がそう聞くと、「全然違う。しらけてしまう」
警察車両も合わせて30台ほどがすぎたころ、車両の影から聖火が見えた。「来た、来た」と浦山さん。すでにランナーと伴走する次男は20メートル前ほどまで迫っていた。
慌ててカメラのシャッターを切る浦山さんに感謝を述べ、私は坂を下ってコースを先回りした。次のポイントは競技場といわき駅の中間地点。住宅地が広がり、さっきより人出が多い。歩道が狭い場所では隣同士の肩が触れ合うほど「密」が生まれていた。やはりランナーより先に来る宣伝車に対し、観覧客も驚く。
◆スポンサーのコロナ対策「できていない」
沿道から少し離れて眺めていたのは同市の鈴木三郎さん(84)。マスクを付けていないDJを見て「沿道には対策してくれって言っておいて、自分たちが対策ができていない。福島も感染が増えていて心配だ」と怒り気味。「東京に住んでいた時に1964年の東京五輪の聖火リレーを見た。こんな宣伝はなかったけど、ものすごく盛り上がったよ」と教えてくれた。
再び移動し、いわき駅近くで、宣伝車と聖火ランナーの通過を見届けた。東日本大震災から復興半ばの被災地では五輪の発信力に期待をかける市民も多い。沿道に来ていた管野和子さん(68)に声を掛けると、夫を震災で亡くしたという。
「聖火を見て涙が出た」と声を震わせた。ただ宣伝車について聞くと「お祭り騒ぎって感じ。どう受け止めていいか。復興に関するメッセージはなかったですね」と話した。
企業は協賛金を出す見返りとして、宣伝活動をしており、過去の五輪でもこうしたパレードが各地で行われていた。沿道では「盛り上がっていい」という声も複数あった。
◆森前会長「お祭り騒ぎはふさわしくない」
しかし橋本会長は東京大会を「『アフターコロナ』『ウィズコロナ』がレガシーになる。社会変革へのムーブメントにしたい」と意気込んでいた。女性蔑視発言で引責辞任した森喜朗前会長も在任時、延期後の開会式の演出についてだが「以前のようなお祭り騒ぎはふさわしくない」と話していた。
この日、リレーの沿道で見られたのは「商業五輪」「スポンサーファースト」の象徴ではなかったか。リレー後の組織委の会見で「これが復興五輪、ウィズコロナにふさわしい演出なのか」と質問すると、中村英正大会開催総括は「そういった意見を地元と相談して、みんなにとって良い聖火リレーにしたい」と淡々と答えた。(原田遼)
◆「ランナーの応援が目的」聖火リレーの最上位スポンサー
聖火リレーの演出に関するスポンサー各社の反応は次の通り。
日本コカ・コーラ「コンボイによる演出はランナーの応援が目的。グッズの配布は観覧者の記念になってほしいという思いから、スタッフの手指消毒を徹底して行っている。25日はDJが沿道と十分な距離が取れていると判断してマスクをしていなかったが、沿道の安心を重視し、26日からマスクを着用させている。現時点で批判の意見が届いているかについては答えられない」
トヨタ自動車「地域の代表であるランナーの応援と、実施される地域への感謝の思いを伝えたかった。今後批判が届けば、意見として受け止めたい」
日本生命「宣伝車のパフォーマンスはランナーを応援するのが目的。感染症対策を徹底し、安心安全な運営に尽力している」
NTTグループ「担当者に確認中」
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