今年、生誕100年を迎える忠犬ハチ公。飼い主との固い絆の物語は、何度も映画化されているが、あまり知られていない白黒映画のフィルムが、渋谷区の白根記念渋谷区郷土博物館に保管されている。担当者は「記念の年に上映会を開きたい」というが、著作権のありかが分からず実現していない。幻の映画は、じっと上映の日を待っている。
幻のハチ公映画はドキュメンタリーではなく、役者らが演じる劇映画。上映時間は約五十分。二〇一九年三月、古いフィルムを集める都内在住の男性から「ハチ公ゆかりの渋谷の博物館に贈りたい」と16ミリフィルムが寄贈された。
映画は、渋谷駅前のハチ公像周辺を清掃する子どもたちの様子から始まる。時代はさかのぼり、ハチ公が東京帝国大の上野英三郎(ひでさぶろう)教授の元に引き取られていく場面に。近所の子どもが散歩に連れて行き、目を離した隙に行方不明になる独自のエピソードも交えて物語は展開。教授が亡くなった後も渋谷駅に通う有名な話へとつながる-。
戦前の物語なのに、映画に映るデパートの宣伝看板には「祝アジア大会」とある。同大会が東京で開催されたのは一九五八(昭和三十三)年だ。
「時代考証は厳密ではなく、物語も事実と異なる。子ども向けに分かりやすく脚色したのではないでしょうか」
博物館の松井圭太学芸員(55)は、小学校や公民館などで上映された教育映画として製作されたと考えている。スタッフロールに「監督・脚本」とクレジットされているのは「中川順夫(のりお)」。一九五〇~六○年代を中心に数々の映画を撮った監督だ。しかし、劇場公開された映画ではないので製作年、製作会社などの正確なデータはない。
ハチ公の映画では八七年公開の「ハチ公物語」が有名だが、「こんな映画は見たことも聞いたこともない」と松井さん。一方、思い当たる節もある。
十年前、ハチ公生誕九十年の特別展を開催した時、来場者の中に「戦後、ハチ公の映画を見た記憶がある」「もう一度見たい」と、熱く語る人もいたという。その時は、どの映画を指しているのか分からなかったそうだが、寄贈されたフィルムを確認した際、「ああ、これだったのか」とふに落ちたという。
実は区にはもう一つ、この映画のフィルムがある。二〇〇五年ごろ、中川監督の遺族から譲り受けたものだとみられるが、やはり著作権の問題で今は公開していない。
今年は生誕百年。博物館は十年ぶりに開くハチ公特別展に合わせて、「幻の映画」の上映を希望している。「何とかご家族に連絡を取って、上映のお願いをさせてもらいたい」と松井さん。特別展を開くのは八月二十二日~十月九日の予定。それまで、上映への努力を続けたいという。
◆生誕100年 愛された生涯
ハチ公は1923(大正12)年11月生まれ。生後約50日で、東京帝国大農学部の上野英三郎教授の元へ。教授の教え子の仲介だった。25年、上野教授は大学の教授会で倒れて急死。ハチ公は上野教授が亡くなった後も渋谷駅に通い、上野教授の帰りを待った。
この逸話を東京朝日新聞が32年に掲載すると、話題に。全国からの寄付で34年4月、渋谷駅前にハチ公像が建てられ、除幕式にはハチ公も立ち会ったという。翌年3月、ハチ公は病死し、大勢が参列して告別式が行われた。
文・布施谷航
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