2021年1月の全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)で優勝した富士通が12月16日、優勝旗が所在不明になっていると発表しました。優勝旗は本来、次回大会で返すべきもので、来年1月1日の大会時には間に合わない可能性が高いようです。 11月下旬に返還準備を始めて、見つからないことに気付いたそうですが、優勝旗や優勝カップは通常、どのように保管しているものなのでしょうか。また、優勝旗などの紛失や盗難で有名な事例はあるのでしょうか。プロ野球の球団業務にも携わったことがある、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。
サッカーW杯は何度も盗難
Q.プロ野球球団や実業団チームなどが受けた優勝旗や優勝カップは一般的に、どのように保管するのでしょうか。 江頭さん「優勝旗や優勝カップは関係者のモチベーションアップのため、多くの人の目につく場所で、ガラス製のショーケースなどの中に飾られることが多いです。特に実業団スポーツでは、社外へ向けた広告宣伝という意味合いと、社内の従業員へ向けた愛社精神の醸成が重要な目的となります。心理学で『栄光浴』と呼ばれるもので、アメリカの心理学者ロバート・チャルディーニ氏が行った実験があります。 自分が通っている大学のフットボールチームの成績によって、『当事者かどうか』の自己認識が変化するという傾向が見られました。具体的には、優勝すると『私たちは優勝した』という表現を使い、成績がよくないと『彼ら』という表現を使ったのです。優勝した場合、フットボール部に全く関係のない学生も『自分は優勝した組織の一員である』とアピールするという現象です。 この心理学的効果を使って、従業員に『自分は優勝した組織の一員で、第三者から羨望(せんぼう)のまなざしで見られる』と自己認識させるのです。高校などでは来客出入り口の近くに大きなショーケースがあり、その中にトロフィーや盾が並んでいる光景をよく目にします。これも栄光浴を内外に与える効果があります」 Q.管理責任者は一般的に誰なのでしょうか。 江頭さん「スポーツ組織の『長』になります。プロスポーツなら球団社長ですし、実業団スポーツなら事業部長、もしくは部長になります。富士通の場合、執行役員常務が記者会見をしていましたが、組織図上での立場で会見をしたと思われます。現実には富士通陸上競技部部長が管理責任者と思われます」 Q.過去の有名な紛失事例があれば教えてください。 江頭さん「紛失も時々ありますが、盗難の方が有名な事例が多いです。世界的に見ると、優勝トロフィーやメダルを狙った犯罪が幾つも報告されています。FIFAワールドカップのトロフィーは何度か盗難に遭い、現在のトロフィーは盗難後に制作された2代目です。最初は1966年の大会前、一般公開されていた際に盗難に遭い、その後発見されました。2度目は1970年にブラジルが3回目の優勝を成し遂げ、カップ永久保持権を得てから13年後のことです。 1983年、ブラジルサッカー連盟での展示中、盗難に遭い、犯人は密告により逮捕されました。1人はブラジルサッカー連盟に自由に出入り可能な立場にある人物で、1人はアルゼンチンの自称彫刻家。犯人は計4人と警察から発表されましたが、肝心のカップは『溶かして売却した』と犯行グループは証言したそうです。 最近では、イギリスのサッカー選手リース・ジェイムズさんが所有するUEFAチャンピオンズリーグ優勝メダルやEURO2020の準優勝メダルが盗難の被害に遭っています。2021年9月16日のAP通信によると、リース・ジェイムズさんが所属チームのチェルシーの試合に出場している間に、自宅の金庫が持ち去られたとのことです。 自宅の監視カメラにはその様子の一部が写っており、ジェイムズ選手はその動画をインスタグラムで公開。『イギリス中のサッカーを愛する人が犯人逮捕に協力してくれるだろう』と、あまり落ち込んだ様子ではなかったと報道されています」 Q.こういったもののコレクターもいるのでしょうか。 江頭さん「スポーツのトロフィーやメダルにはコレクターが存在し、水面下で高額で取引されているとの報道もあります。コレクターはオークションで、アスリートから直接メダルを購入することも近年は行われるようになりました」
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