Google DriveやMicrosoft OneDrive、さらにはDropboxやBoxなどのクラウドストレージは、今やかなりなじみのあるクラウドサービスだ。ストレージ領域がクラウド上にあれば、PCやスマートフォンなど多様なデバイスからデータを保管でき、場所を選ばずアクセスできる。クラウドストレージは当初、単価当たりのストレージ容量の大きさやデータ同期スピードの速さが優位性だった。その後はデータ共有機能や他のアプリケーションとの連携、コンプライアンス対応機能などが追加され、進化を続けている。
では、これら代表的なクラウドストレージの特徴を探っていこう。
MicrosoftやGoogleはコンプライアンスを確保できる企業向け機能を強化
OneDrive最大の特徴は、Microsoft Officeなどとのシームレスな統合だろう。Windowsを使っていれば、意識することなくOneDriveの機能を利用できる。Windowsユーザーであれば容量5GBまで無償で利用できる個人向けサービスに加え、企業向けに強化したOneDrive for Businessもある。こちらはMicrosoft 365の一部として企業レベルのセキュリティやコンプライアンス、管理性を提供し、データ損失や悪意ある攻撃からデータを保護し、社内外で安全にファイル共有や共同作業を可能としている。
OneDriveのようなコンテンツ共有機能はかなり便利なものだが、意図せず情報が共有され情報が漏えいするリスクもある。リスクを回避し安全に共有するために、例えばOneDrive for Businessでは、保存されているクレジットカード番号などを含むドキュメントを自動で特定できる。また特定ユーザーのOneDriveの利用を監視する機能もある。これらでデータ損失のリスクを軽減できるのだ。またOneDrive for Businessを使えば、詳細な操作ログ、監査ログを取得でき監査に耐えうるレポートの出力も可能だ。
OneDrive for Businessでは、継続的に機能が強化されている。例えばアップロードできるファイルサイズの上限が100GBに拡大されるなど、20以上の新機能開発が行われており2020年中にも提供を開始する予定だ。OneDriveの最新機能アップデートについては、「Microsoft 365 Public Roadmap」のサイトにまとめられている。
個人用で容量15GBまで無料で利用できるGoogle Driveにも、ビジネス向けのDrive Enterpriseがある。こちらは従量課金制で、容量の上限は設定されていない。Google Driveで利用できる共同編集に必要な一連の機能が全て利用でき、その上で組織利用のための管理機能もある。
Drive Enterpriseの主な機能には、共有ドライブを使用したプロジェクトチームや部門での容易な共同作業を可能にするコラボレーション機能、ファイルの機密コンテンツをスキャンし組織外のユーザーに共有されないようにするデータ損失防止機能などがある。
ドライブに置かれるファイルの保持、記録、検索、書き出し機能を提供し、さらにコンプライアンスを確保した上でアーカイブや電子情報開示を可能にするGoogle Vault、ユーザーがドライブのコンテンツに行った、表示、作成、プレビュー、印刷、更新、削除、ダウンロード、共有――といった操作全てを監視できる監査ログ機能もある。
そんなGoogle Driveの大きな特徴の1つに、Google検索由来の強力な全文検索機能がある。G Suiteで作成するドキュメントなどの中身はもちろん、写真やPDFなどのファイルをGoogle Driveにアップロードし、Googleドキュメントで開けばOCRでテキスト化され、元のデータも全文検索の対象となる。さらに得意のAI機能を利用し、機械学習によりユーザーが頻繁に利用するファイルを予測し優先表示する機能もある。これについては、OneDriveでも同様な機能の提供が予定されている。
ところで、複数のメディアの報道によれば、Googleではメール、ドライブ、チャット機能などを統合する新たなメッセージング・アプリケーションの開発を行っているようだ。Googleからの正式アナウンスはまだないが、これはコラボレーションとコミュニケーションをGoogleが新たに統合し、旧来のばらばらなコミュニケーションツールの在り方を見直すことになる。その上で、社外メンバーを含む共同作業をよりスムーズに行えるようにする取り組みと捉えられる。今後はより一層コミュニケーション、コラボレーション、そのためのコンテンツの共有が一体化した環境で実現されるようになるのだろう。
Dropboxでは1つのツールの中でコンテンツ管理を集約し共同作業をしやすくする
独立系でクラウドストレージに特化しているDropboxは、一般消費者向けに無料サービス枠を設け、他のユーザーを紹介すると利用容量が増える仕組みで大きく認知とシェアを広げた。世界中に広がった顧客ベースを基に、より多くの容量を必要とするユーザーを有料版へ誘導し、最近ではビジネスユーザー向けサービスや機能を拡充して企業向け市場を開拓している。
Dropboxが注力しているのが、日々業務で利用するコンテンツ管理をDropboxに集約し、チーム作業のコラボレーションを活性化する「スマート ワークスペース」のコンセプトだ。現状、メールやチャットなどさまざまな方法でコミュニケーションをとるようになり、結果デジタル空間にコンテンツが散在し必要なものを探すのにも手間と時間がかかっている。
それに対しDropboxでは、2019年9月から新たなユーザーインタフェース「Dropbox Spaces」を提供し、散在するコンテンツを整理された状態で集約しやすくした。Dropbox Spacesでコンテンツ管理を集約し、さらに共同編集機能の「Dropbox Paper」で集約されたコンテンツの共同編集を容易にする。これらがDropboxの1つのツールで完結しているのが特徴になっている。
Dropbox Paperの共同編集機能は、ともすればOneDriveやGoogle Driveと競合する。しかしDropboxでは、むしろMicrosoftやGoogleと積極的に協業する方針をとる。特にOffice製品との連携には力を入れており、あらゆるバージョンのOfficeを利用する共同作業を容易にする「Dropbox バッジ」機能も新たに追加している。Dropbox バッジでは、Officeツールを立ち上げるとDropboxアイコンが表示され、クリックするだけでファイル共有時の閲覧や編集状況をすぐに把握できるようになり、利用者の排他制御も可能となる。
Dropboxの優位性としては差分同期、LAN同期、ストリーミング同期機能により、同期速度が速いことが挙げられる。また大容量ファイル、大量のファイルが扱え全文検索機能があること、さまざまなファイルタイプのプレビュー機能もユーザーからは評価が高いようだ。非機能面ではコンシューマー向けに普及したことでITリテラシーがそれほど高くない人でも利用のハードルが低く、それが企業導入後の利用率の高さに貢献しているとも言われている。
Boxはセキュリティとワークフローがビルトインされている
Boxは、エンタープライズ向けのクラウドコンテンツ管理プラットフォームを目指しており、早い段階からエンタープライズ向け市場に注力している。特徴は、クラウドストレージにワークフローとセキュリティ機能がビルトインされていることだ。
Boxでは社外とコンテンツ共有する際に、管理者などに頼まずにユーザーが容易に設定できる。安全な共有のためのさまざまな工夫があり、例えば外部との共有があるフォルダが一目瞭然で、SMSを使った二要素認証もいち早く取り入れている。他のクラウドストレージが2、3段階しかないアクセス権限も、Box独自に7段階とかなり細く設定可能だ。Box上のドキュメントに電子透かしを入れることで、撮影による不正コピーの抑止機能などもある。
新たなビルトインされたセキュリティ機能が、Box Shieldだ。Box Shieldにはデータ漏えいを防ぐ「Smart Access」と、脅威を自動検出する「Threat Detection」の2つがある。Smart Accessは、コンテンツのファイルにラベルを付けて分類し、分類ごとにセキュリティポリシーに沿ったアクセスコントロールを実現する。アクセスの抑止だけでなく、ファイルは開けるが編集できないなど細かい制御が可能だ。
Threat Detectionは、ユーザーのコンテンツ利用状況を機械学習し、コンテンツに対する異常な利用行動を自動で検出する。数日間学習すれば「普通の状況」が明らかになり、以降は普段と異なる場所からのアクセスや不正なデータの持ち出しにつながるダウンロードなどを自動で検出し制御できる。
Boxのもう1つの特徴は、Salesforce.comやServiceNow、Workday、さらにはSlackやZoom、DocuSignなど多くのSaaSと連携していることだ。連携APIを提供するだけでなく、ベンダーとは開発レベルの深い協業関係を築いている。他にもAdobeやOracleなど、エンタープライズ向けソフトウェアベンダーとの協業も昨年明らかにした。積極的な外部サービスとの深い連携は、Boxの企業向けサービスとしての重要な戦略となっている。
複数サービスの組み合わせが業務効率化のカギ
既にクラウドストレージのサービスは、クラウド上にストレージ領域を確保し安全にファイルを保存、共有できるだけではない。日常業務の中でコミュニケーションやコラボレーションを活性化させる環境の核となっている。そのためにはクラウドストレージとしての機能を拡充するだけでなく、他のアプリケーションとのシームレスな連携は今後さらに重要となるだろう。
ユーザーは排他的にクラウドストレージを選択するのではなく、複数サービスをうまく組みあわせ、効率的に共同作業ができる環境を手に入れるとよいだろう。
2019年にはクラウドストレージのサービスでも、比較的大規模な障害が発生した。クラウドストレージが日常業務の中で手放せないツールとなっており、クラウドストレージのバックアップ/リカバリーについても今後は十分に備えておく必要もありそうだ。
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