東京五輪・パラリンピック組織委員会は21日、新型コロナウイルスによる史上初の1年延期で昨夏に開催された大会の経費を総額1兆4238億円とする最終決算を発表した。組織委は30日に解散する予定。経費に関する契約書などの文書は清算人が10年間保管するが、開示の義務がない。開催自治体の東京都でさえ「閲覧は困難」との見方だ。当初の2倍に膨らんだ経費や新型コロナ流行下の開催で国民の批判を受けた大会の検証が難しくなる。(原田遼)
総額は昨年末に示した見通し額から292億円を減らしたが、招致時に試算した7340億円のほぼ2倍。負担は組織委が6404億円、都が5965億円、国が1869億円。剰余や不足は発生しない。
事業別内訳では会場の仮設工事費が2827億円で最多。感染対策費が353億円、開閉会式は153億円、聖火リレーは98億円だった。決算は同日に開催した理事会で承認された。
公益財団法人の組織委は27日に評議員会を開き、解散決議と清算人選出が行われる見通し。7月から清算に入り終了後、法人格が消滅する。訴訟リスクに備えて消滅まで144億円を残す。
一般社団・財団法人法では解散後、清算人が「重要文書」を10年間保管する義務があり、組織委は帳簿、契約書、
組織委は重要な意思決定を全て非公開で行ってきた。情報を開示する法的仕組みがなく、詳細な契約内容や議事録を明らかにしてこなかった。都の拠出で組織委が契約を担う運営、警備などの「共同実施事業」も、業者との契約が一部非公表のままだ。
また今回の経費とは別に国と都が間接的な経費を予算化しており、大会にかかった経費は全体で3兆円を超えるとみられている。
一方、大会記録や運営計画書は日本オリンピック委員会(JOC)内に置く「アーカイブ組織」で長期的に保管し、今後の大会に活用する。
組織委の橋本聖子会長は21日の理事会で「コロナ禍で困難に直面したが、アスリートの活躍で世界中に感動と希望を届けられた」と話した。
◆東京都も自ら検証せず 「うやむやでいいのか」
経費膨張、女性蔑視発言に伴う森喜朗前会長の辞任、未曽有の新型コロナ禍での開催…。今月末に解散する組織委員会だが、招致決定後のさまざまな問題を巡る意思決定の過程や契約などの記録は、今も多くが開示されていない。
組織委の元幹部は「多額の公金を使ったのに、うやむやなままでいいのか」と憤る。経費膨張の一因を「組織委では適正価格を精査できる人材が少なく、業者の言い値で契約しているケースも少なくなかった」とし、「客観的に検証しなければ、都民の不信感は消えないし、招致活動中の2030年冬季札幌大会も市民の支持は得られない」と指摘した。
1998年冬季長野大会では開催後、国際オリンピック委員会(IOC)で不正招致の疑惑が浮上したが、招致委員会が帳簿を焼却していたため、真相は分からなかった。
こうした教訓を受け、都議会では野党が第三者委員会による検証や、「共同実施事業」の全契約書の公開の必要性を主張。しかし都は検証の機会を設けておらず、石原慎・調整担当部長は「取り組みは議会で適時報告しており、組織委員会から報告書も出ている」と説明する。
組織委の解散後、重要文書を清算人が保管するため、情報開示の壁はさらに高くなり、市民やメディアはもちろん開催都市ですら閲覧が難しくなる。保管期間も法的な義務は10年間で、その後の扱いは決まっていない。
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