Sunday, July 12, 2020

遺言書を「法務局」に預けられる 「遺言書保管法」本日スタート~制度のメリット・デメリットと注意点(竹内豊) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

遺言の普及を促し、相続をめぐる紛争を防止することを目的とした「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下「遺言書保管法」といいます)が、本日7月10日に開始しました。そこで今回は、遺言書保管法のメリット・デメリットと注意点についてご紹介します。遺言に関心がある方は必見です!

メリット

メリットとして次のことを挙げることができます。

遺言書を公的機関に預けることができる

自筆証書遺言(自分で書くことによって残す遺言書)を公的機関である法務局(=「遺言書保管所」といいます)に預けることができます(遺言書保管法4条1項)

遺言書保管法4条1項

遺言者は、遺言書保管官に対し、遺言書の保管の申請をすることができる。

これにより、自筆証書遺言の弱点である作成後の紛失・忘失や、相続人等による破棄・隠匿を回避することができます。なお、保管できる遺言書は自筆証書遺言のみです。公正証書遺言や秘密証書遺言の保管申請はできません。

専門家が確認してくれる

遺言書保管所に保管の申請をすると、遺言書保管官(遺言書保管法3条)が、民法が規定している自筆証書遺言の方式(民法968条)のとおりに書かれているかを確認します。これにより、自筆証書遺言にありがちな方式不備による無効を回避できます。

遺言書保管法3条(遺言書保管官)

遺言書保管所における事務は、遺言書保管官(遺言書保管所に勤務する法務事務官のうちから、法務局又は地方法務局の長が指定する者をいう。以下同じ。)が取り扱う。

民法968条(自筆証書遺言)

1.自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2.前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3.自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

信ぴょう性が高くなる

遺言書保管官は、申請人が遺言者本人であるのか確認するために、運転免許証やマイナンバーカード等の提示や「住民票の写し」等の提出または申請人に説明を求めることにより本人確認を行います(遺言書保管法5条)

遺言書保管法5条(遺言書保管官による本人確認)

遺言書保管官は、前条第1項の申請があった場合において、申請人に対し、法務省令で定めるところにより、当該申請人が本人であるかどうかの確認をするため、当該申請人を特定するために必要な氏名その他の法務省令で定める事項を示す書類の提示若しくは提出又はこれらの事項についての説明を求めるものとする。

自筆証書遺言は遺言者が一人でだれにも知られずに作成できます。そのため、遺言者の死後に、相続人等から「本当に本人が作成したものであるのか」という疑義が出されて遺言の真贋をめぐる争いが生じることがありました。遺言書保管官による本人確認によって、申請した遺言書は)本人が作成したものである」という信ぴょう性が極めて高くなるので、遺言の真贋をめぐる争いを回避することができます。

デメリット

デメリットとして、次のことが挙げられます。

手数料がかかる

申請には手数料3,900円が必要です。なお、その後の保管年数による追加納付は発生しません。

代理申請できない

前述のとおり、遺言書保管所では、本人確認を行います。そのため、遺言者が遺言書保管所に自ら出頭しなくてはなりません(遺言書保管法4条1項・6項)。したがって、代理申請はできません。

遺言書保管所に出頭しないと申請できない

保管申請は、遺言書保管所のうち、次のいずれかを管轄する遺言書保管所の遺言書保管官に対して行わなければなりません(遺言書保管法4条3項)

1.遺言者の住所地

2.遺言者の本籍地

3.遺言者の所有する不動産の所在地

したがって、遺言書保管官が遺言者の自宅や入院施設に出張して遺言書を保管するということは行いません。そのため、遺言者本人が病気等のため遺言書保管所に出頭できない場合は、この制度を利用することはできません。なお、介助のために付添人が同伴することは差し支えありません。

注意すること

遺言書保管法の制度を利用するにあたっての注意点をご紹介します。

内容は自己責任

申請の際に、遺言書保管官が確認するのは、民法968条に定める方式の適合性です。具体的には次の事項を確認します。

・日付および遺言者の氏名の記載

・押印の有無

・本文部分が手書きで書かれている否か 等

したがって、遺言の内容まで確認しません。遺言の内容については、あくまでも自己責任です。なお、遺言書保管所では、遺言書の作成に関する相談には一切応じません。

死後に通知される仕組みは構築されていない

遺言は遺言者の死亡のときから効力が発生します(民法985条1項)

民法985条1項(遺言の効力の発生時期)

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

したがつて、遺言者の死後に、遺言書が相続人や遺言執行者に発見されないと、遺言の内容が実現しないことになります。

実は、遺言者の死亡届が提出された後、遺言書を保管していることが相続人、受遺者、遺言執行者等に通知される仕組みは構築されていません。したがって、遺言書保管所に遺言書を預けても、そのことが相続人等の関係者に知られずに、遺言書は無きものとして遺産分割が相続人の協議でされてしまう危険性があります。

遺言書の保管を申請したら、手続終了後に、遺言書保管官から交付される遺言者の氏名、出生の年月日、遺言書保管所の名称および保管番号が記載された「保管証」を受遺者や遺言執行者に渡すなどして、確実に死亡後に遺言の内容が実現されるようにしておきましょう。なお、保管証を渡す場合は、必ず写しを取っておくことをお勧めします。

いかがでしょうか。この制度を利用することで、従来の自筆証書遺言の弱点を補うことができて、死後に遺言の内容が実現できる可能性が高くなることがお分かりいただけたと思います。

遺言書保管法の施行をきっかけに「遺言書を作成してみよう!」とお考えの方は、法務省ホームページ「7月10日から開始します!預けて安心!自筆証書遺言書保管制度」をご参照ください。制度の詳細と保管の申請方法についてご覧いただけます。

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July 10, 2020 at 04:30AM
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