東京電力福島第1原発にたまる処理水の海洋放出が24日、風評被害を懸念する漁業者らの反対を押し切る形で始まった。政府は「原発の廃炉を進めるためには先送りできない」(岸田文雄首相)と必要性を強調する。2051年を完了目標とする廃炉工程の中で、どう位置付けられているのか。現状を整理した。(福島総局・東野滋)
世界最悪レベルの原発事故から間もなく12年半。日々発生する汚染水を浄化処理した水の保管タンクは1000基を超え、第1原発の敷地を埋め尽くす。
政府と東電が処理水放出を急ぐのは、タンクを撤去し、敷地に空きスペースを作るためだ。原子炉内の溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しに向け、デブリの保管施設などを整備する用地にしたい考えがある。
処理水の保管量は17日現在で約134万トンに上り、保管上限の98%に達する。第1原発の汚染水はデブリの冷却水のほか、地下水と雨水が原子炉建屋に流れ込むことにより、1日100~140トン増加。浄化後の処理水のタンクは、来年2~6月ごろに満杯になると見込まれている。
放出設備のイメージはイラストの通り。処理水には除去できない放射性物質トリチウムが大量に含まれるため、海水を混ぜて濃度を国の排出基準の40分1(1リットル当たり1500ベクレル)未満に薄めて流す。異常時には2カ所の緊急遮断弁を作動させ、放出を止める。
政府が海洋放出を決めたのは21年4月。前年に「海洋放出が現実的で確実」との報告書を政府に提出した小委員会は、一方で「透明性のある情報発信や双方向のコミュニケーションに長期的に取り組むべきだ」と注文も付けた。だが、国内外の理解が十分に深まったとは言い難い。
本年度後半に試験的に始まるデブリ取り出しは、廃炉工程で最難関とされる。難航が予想されるが、作業が遅れるほど汚染水は増え続け、放出による処理水の削減量を一定程度相殺する。不透明な要素をはらみつつのスタートとなった。
処理水の海洋放出開始 完了は30年程度、廃炉へ大きな節目
東京電力は24日、福島第1原発にたまり続ける処理水の海洋放出を始めた。保管タンクの容量が限界に迫る現状を打開し、廃炉に向かう大きな節目となる。2023年度は3万1200トンを4期間に分けて流す計画。最初の約7800トンは24時間体制で放出し、9月10日にも終える。放出完了までの期間は、第1原発の廃炉目標の2051年まで30年程度を見込む。
東電は準備段階として処理水約1トンを海水約1200トンで希釈。放射性物質トリチウムの濃度は1リットル当たり最大63ベクレルで、放出基準(1500ベクレル未満)を大幅に下回ったことが確認できたとして、午後1時3分に放出作業に着手した。
約10分後、大量の海水で薄められた処理水が大型水槽から隣の立て坑にあふれ出し、午後1時半過ぎには海底トンネルを通り、約1キロ沖合の放出口から海に流れ出したとみられる。
東電の計画では、1日当たり約460トンの処理水を約34万トンの海水で約740倍に希釈して放出する。希釈後のトリチウム濃度は毎日サンプル測定する。
処理水の保管量は約134万トン。処理水のもとになる汚染水が日々発生するため、23年度の処理水の削減量はタンク約10基分、約1万1200トンにとどまる見通しだ。
東電の小早川智明社長は記者会見し「廃炉完了まで風評被害を生じさせず、信頼を裏切らない決意と覚悟を持って対応する」と強調。漁業者ら関係者の理解に関しては「首相らが一定程度の理解を得て進めるという事実は承知している」と述べただけで、東電の見解は明らかにしなかった。
内堀雅雄福島県知事は談話を発表し「東電には全社を挙げて万全な対策を徹底的に講じるよう求める。国は前面に立って最後まで全責任を全うしてほしい」と要望。県も風評対策を早急に検討する考えを示した。
<処理水> 東京電力福島第1原発事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷却したり、地下水や雨水が放射性物質に触れたりして発生した汚染水を多核種除去設備(ALPS=アルプス)で浄化した水。放射性物質トリチウムは除去できない。国際原子力機関(IAEA)は7月、処理水が人や環境に及ぼす影響は、無視できるほどわずかだとする包括報告書を公表した。東電は処理水と大量の海水と混ぜ、トリチウム濃度を世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1(1リットル当たり1500ベクレル未満)まで希釈して放出する。トリチウムは自然界に存在し、水道水にも含まれる。
からの記事と詳細 ( 増える処理水、保管は限界 タンク撤去急ぐも先行き不透明<廃炉と海> - 河北新報オンライン )
https://ift.tt/9AVSk2Y
0 Comments:
Post a Comment