ストレージデバイスの市場は今も活発だ。SSDは、ゲーミングPCやゲーム機でのPCI Express 4.0/NVMe対応や大容量化が進み、エンタープライズ市場ではストレージすべてをSSDで構成する「オールフラッシュストレージ」の導入などが相次ぐ。
一方でHDDの存在感も相変わらず強い。新型コロナウイルスの流行によるリモートワークの普及や巣篭もり需要などにより、外付けHDDの需要が急増したほか、PC内蔵用のHDDも6TB~8TBモデルの大容量モデルを中心に人気が高い。
用途が広がりメーカー間の競争も激化しているストレージ市場において、日本国内で一段と存在感を高めているのがWestern Digitalである。同社は、「BCN AWARD 2022」のHDD内蔵部門、SSD内蔵部門、メモリーカード部門のストレージ関連3部門で販売台数1位を獲得。日本市場においての強さを改めて示した。そのWestern Digitalに躍進の背景と今後の展開について話を伺った。
分厚い製品ポートフォリオで首位を奪取したSSD/HDD
――メモリーカードは3年連続、HDDはSeagateからの首位奪還、内蔵SSDは初の1位ですが、その原動力となったのは何でしょうか? とくにSSDは、2020年3位、2021年2位と徐々に順位をアップさせています。シェア拡大の要因や各部門におけるシェア拡大を牽引した製品について教えてください。
WD:長くご評価いただいているメモリーカードは、サンディスクブランドがプロの写真家の方々、写真を楽しまれる方を中心に広く浸透し、日本のユーザーのみなさんに強いご支持をいただいております。
HDDについては、具体的な製品を挙げると、「WD Blue」の6TBモデルが長期に渡り人気の製品です。また、2021年春に投入した「WD Red Plus」も貢献しました。CMR方式のHDDであることを明確にした上で“NAS用のHDDに最適”と製品の位置付けを再設定できたことが大きかったと考えています。さらに、「WD Blue」の8TBを新たに追加できたのは、今後に向けた大きな動きです。
SSDは、SATA製品の市場は先行しているライバルも多く、競争が大変厳しいものでした。しかし、2021年にかけて、SSD市場はNVMeへの移行が大きく進みました。当社は、エントリークラスのWD Green SN350、普及価格帯のWD Blue SN550と後継のSN570、ハイエンドクラスのWD_BLACK SN850やSN750 SE、さらにはNASに最適なWD Red SN700と、幅広い製品ポートフォリオを用意できていたので、NVMeの普及拡大は大変な追い風となり、今回の結果につながったと考えています。
――SSDのシリーズで特に人気があるのはどれですか?
WD:やはりWD Blueがご好評いただいています。本社からもっとシェアを獲りに行こうという声がありWD Greenの展開強化も進めていますが、お客様がWDの製品に求めるものは“高性能”という面があります。例えば、TBWがWD Blueなどに比べて低いことなどを懸念される方もいらっしゃるようで、低価格帯の製品はなかなか苦戦をしています。
――WD Greenの2TBモデルは最安クラスなので、もっと売れてもいいように思います。リードがメインの用途に使うのであれば、速度の面でもTBWの面でも、一般ユーザー的にはデメリットは少ないでしょう。例えば、ゲームをインストールして使うのであれば、SSDへのアクセスのほとんどはリードなので、寿命への影響は少ないわけですよね。
WD:おっしゃる通りです。品質にはいずれの製品も十分なものなので、用途にあった製品を選んでお使いいただきたいです。
日本市場とグローバル市場の違いにも対応して支持を得る
――さて、HDDのWD Blueはいよいよ8TBまで揃いました。
WD:“(HDDの)Blue=PCの起動ドライブ”という認識からの脱却によるラインナップ追加、と言えます(編集部注:以前は“データ保管先としてのHDD”と見られていない考え方、地域があったとのこと)。8TBという容量はかなり大きいので、(その容量ならより高性能なWD Redなどの製品でカバーできるため)普及帯の製品であるWD Blueとしては8TBもの容量は必要ないのではないか、という意見が本社では強くありました。しかし日本市場ではWD Blueの価格レンジでの8TBモデルを求める声が大変強かったので、粘り強く本社にかけ合い、ようやく21年秋から市場に投入できました。
――「Blueにも大容量を!」という声は日本市場独特のものなのですね。
WD:グローバルでは、大きくても4TB程度で、6TBや8TBのHDDがこれほど家庭ユーザー向けに売れる市場はあまりありません。
――ほかにもグローバル市場と日本市場の違いはありますか?
WD:市場の成熟度などによって違いはありますね。例えばSSDの場合、中国ではWD Greenが非常に売れています。アメリカの場合、いわゆるOEM向けのSSDがかなりのスピードでNVMeに移行したのに対して、日本市場ではまだまだSATA製品が強い傾向にあります。
――売れ筋の容量、価格はどの辺りでしょうか?
WD:SSDもHDDも、価格であれば「1万円切り」や「1万5,000円前後」が売れ筋のキーワードです。容量は、SSDだと現在は(500GB前後に代わって)1TBが非常に強くなってきています。今後は1~2TBになっていくと思います。
HDDは6TBが中心で、8TBも伸びてきました。
――外付けストレージについてお聞きします。外付けSSD部門でも着々と順位を上げ、今回は2位に入りました。
WD:大容量、高耐久などの付加価値のある製品を展開して高く評価いただいています。売り上げベースはすでに1位になっていますので、この方針を維持していきます。
――外付けHDDは日本市場と海外市場でニーズがかなり異なると聞きますが、実際のところはどうなのでしょうか?
WD:内蔵もそうでしたが、海外では日本ほど大容量の外付けHDDは人気がないようです。外付けのデスクトップタイプに関しては、“TV番組をHDDに録画する”文化が根付いているのが最大の違いですね。ポータブルタイプの外付けHDDに関しては、WDはかなりのシェアを獲得できています。
用途に応じた使い分けがやっぱり大事! HDDにはNANDを活用した新技術も
――自作PCファンや、個人ユーザー向けにストレージのオススメ構成や使い方の提案などあれば教えてください。リモートワークに自宅の環境を使っている人に向けたアドバイスがあればあわせてお願いします。
WD:アプリケーション(用途)に合った製品選びを意識されるとよいのではないでしょうか。WDの製品なら、ゲーミング用途なら新製品のWD_BLACK SN770、クリエイターの方にはAdobe Creative Cloudの1カ月間の無料メンバーシップが付いてくるWD Blue SN570などです。
SSDを乗せ換えた人は、取り外したSSDを外付けケースに入れてモバイルSSDとして再利用するのも、リモートワークやハイブリッドワークが注目される昨今の状況に合っていると思います。
また、3月31日は「World Backup Day」という、バックアップの重要性を学ぶ世界的なキャンペーン日です(編集部注:「エイプリル・フールが現実にならないように」という標語のもと、4月1日の前日に実施)。手元のストレージの容量が大きくなっているので、この機会に、クラウド、さらには別のストレージにバックアップを取る、という備えもぜひ検討してみてください。
――最後にWDとしての2022年の目標や取り組みについて教えてください。
WD:ユーザーのみなさんのご支持により、BCNアワード3冠を獲得することができました。来年以降も獲得できるよう取り組んでいきます。製品としては、SSDはWD Blue SN570、WD_BLACK SN770が主力になります。
また、HDDは6~8TBの製品が引き続き中心になりますが、HDDにNANDを組み合わせた“OptiNAND”搭載モデルが、いわゆる“カラーモデル”で登場する予定です。HDDのパフォーマンスの大幅な向上が見込めますので、ぜひご期待ください!
SSDの次のステップは22年後半か。HDDも次世代技術で高速化と大容量化
ストレージ市場は、2022年も話題が尽きない。SSDは、先行するIntelプラットフォームだけでなく、AMDプラットフォームでもPCI Express 5.0対応が予定されており、2022年後半以降、PCI Express 5.0対応製品の登場が期待されている。PCI Express 5.0対応SSDは、NANDメモリのインターフェイス速度とのからみもあるため、いきなり現行のPCIe 4.0対応SSDの倍の速度とはいかない可能性が高いが、それでも登場すれば、その時点の最速製品となるだろう。
また、SSDの人気の中心も現行の500GB~1TBから1TB~2TBへと移行してもおかしくない状況だ。価格次第では、2TBモデルが一気にブレイクということもあるかもしれない。HDDは、Western DigitalのOptiNAND搭載HDDのように次世代技術の大容量化技術を採用した製品が最大容量のモデルにラインナップされる。HDDもさらなる大容量化に向けた第1世代の製品が、いよいよ本格的に登場することになるというわけだ。
HDDだけでなく、SSDの根幹部品であるNANDメモリも製造する老舗ストレージベンダーのWestern Digitalの動向からますます目が離せない。
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